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週刊新潮 七月十四日号
「石原良純の楽屋の窓」
109回
いいとも! お台場に来る 

♪お昼休みは ウキウキ ウォッチング♪
 正午きっかり、お馴染みの軽快なリズムに乗って番組が始まる。
 イワンとジョンのいいとも青年隊に続いて、タモリさんが登場するとスタジオのテンションは一気に最高潮に達する。大歓声を聞きながら、僕ら水曜レギュラーはセットの裏で出番のきっかけを窺っていた。
 でも、何かが違う。観覧席の歓声はフルボリュームでも、いつものセットを押し倒してしまいそうな、お客さんの勢いが伝わってこないのだ。
 その理由は、この日の生放送がお台場のフジテレビからだったからだろう。『笑っていいとも!』といえば、新宿スタジオアルタと決まっている。そのスタジオがデジタル放送対応工事のために、一ヵ月間使えないのだ。
 “いいとも”二十三年間、この日で五千八百二十七回の中で、番組がアルタを飛び出したのは、年末ハワイからの二回と、系列局の開局記念行事で地方へ出た、僅か数回だけのことだ。
 もちろん、V3スタジオにはアルタのセットがそのまま移動してきた。出演者が最前列のお客さんの足にぶつかってしまいそうな、ステージと観覧席の間尺も同じ。前列の背中に後列の膝が触れ合う観覧席の間隔の狭さ、後列にいくほどせり上がる観覧席の傾斜も同じ。横の壁もアルタの壁を模している。ファッションビルの中の小さなスタジオをそっくりそのまま再現しているのだ。
 それでも音の響きが違う。それは、天井の高さのせいに違いない。アルタでは低い天井のおかげで、歓声が演者に一直線に向ってくる。まるでライブハウスのような感覚は、テレビ局の大きなスタジオをいくら小さく仕切っても造りえないということだ。
 いつもと違う会場のテンションに、タモリさんまで「特番のようで勝手が違う」と少しとまどう様子。
でも僕は“いいとも”レギュラーになってまだ二年目。アルタ独特の雰囲気に、時に気遅れしてしまう僕にとっては、無機質なテレビ局のスタジオの方が居心地が良かったりもする。
 業界人が“いいとも”に出演するとすれば、まずは日替りゲストのトークコーナー・テレホンショッキングだろう。
 舞台公演で御一緒した引田天功さんからの友達の輪で、初めてアルタに足を踏み入れた僕は、狭い空間にギッシリと詰った観覧者を目前にしてびっくり。低い天井に吊るされた照明に煌々と照らされて、小さな震えが止まらぬうちに出演を終えてしまった。
 こんな経験をアルタでするのは、トークや生放送に慣れていない俳優さんばかりではない。ライブを数こなす芸人さんでさえ、“いいとも”初出演となるとあがってしまい、何もしゃべれなくなるという。アルタには、不思議な魔力が存在するのだ。
 自分が子供の頃から観ていた番組。友達が観ていた番組。今日も日本中で、いろいろな人が観ている番組。そう思うと誰もがカーッと頭に血が昇ってしまうのだろう。
 楽屋の居住性も、局の方が数段上だ。アルタでは、スタジオは七階、簡単に間仕切りされただけの楽屋は八階。誰かがピョンと跳ねたなら、着替えを覗かれかねない。
 また八階は、ファッションビルのハウスマヌカンさん達の控え室。やたらと派手なお姉さん達がスパスパタバコをふかしている。
 夕方には、『スーパーニュース』の天気コーナーもあるし、アルタよりも、僕はやっぱりお台場派ということか。
 空き時間は、楽屋で持参の寝袋にくるまって昼寝をし、僕は、毎週水曜日のフジテレビライフを楽しんでいる。
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