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週刊新潮 四月二十三日号
「石原良純の楽屋の窓 」
295回
武者クイズ

 頭上には、黄金色に輝く二本の巨大な角がそそり立つ。飾り兜を被った僕が丸イスから立ち上がれないのは、角先が衣裳部屋の天井を突き破ってしまうから。
 甲冑を身に纏い、僕が鎮座するのは、NHK大河ドラマ『天地人』の衣裳合わせでのこと。
 ここで、問題です。
「僕は誰でしょう」
 ヒント。秀吉に仕えた。『賤ヶ岳の七本槍』のひとり。武闘派の武将、加藤清正の親友。
 ここで答えが分かる人は、かなりの戦国武将通だ。
 昨年の大河ドラマ『篤姫』の影響で今や戦国ブーム。若い女の子が歴史書を読んだり、史跡を巡ったり。また、”侍言葉”なるものが若者に流行しているという記事を読んだのは、先週号の本誌でのこと。「合コン」は「合戦」、「授業」は「手習い」、「ゴルフ」は「鷹狩」と呼ばれているのだとか。
 それでも、僕の役名は、なかなか頭に浮ぶまい。
 去年の十一月『天地人』の後半部主要キャスト発表の席には、大河ドラマならではの、豪華キャストが並んだ。
 徳川家康は、松方弘樹さん。豊臣秀吉は、笹野高史さん。そして織田信長、伊達政宗、前田利家と、大河ドラマの主役となった有名武将のキャストが次々と紹介された。
 でも、僕が演じる武将は主役になったことはない。他の皆さんに比べて圧倒的に知名度が低いと思うのは、僕だけではないはずだ。
 思わず洩らしたそんな僕の感想を聞きつけたプロデューサー氏に僕は大目玉を喰ってしまった。
江戸幕府への忠勤に励む一方で、秀吉の恩に報いるため豊臣家を主筋に立て続けた悲劇の武将。主役の直江兼続と同様に、戦国の世にあって、”愛”を貫き通した人物。その想いはドラマを観る人の心に必ず通じると諭された。
 第二ヒント。北政所を強く尊崇して豊臣家を思いながらも、文治派の石田三成と対決し袂を分かつ。関ヶ原の合戦では、東軍の先鋒を務め、大戦功を上げる。武辺一辺倒の武将は、老獪な家康の策謀に乗せられたともいわれている。
 ここまで聞いても分からない人は、もういくらヒントがあっても分かるまい。ちなみに、戦国時代好きの僕は、もちろんこの人物を知っていた。
 僕が戦国時代に興味を持ったのは、小学校六年生の時、大河ドラマ『国盗り物語』を観たのがきっかけ。
 暗い顔した近藤正臣さんの明智光秀に、大きな声の高橋英樹さんの信長が本能寺で襲われる。女だてらに難刀を振って応戦する松坂慶子さんの濃姫と共に、新しい時代の幕開け寸前の信長の最期を僕は、悔し涙を浮かべて観た覚えがある。
 でも、あの物語には僕の演じる人物は登場していなかった。彼は信長の子分の秀吉の子分だから仕方ない。
 第三ヒント。家康と秀頼の会談に尽力するも豊臣家は滅亡。その後は幕府への忠勤に励むが、広島城の無断修理を咎められ改易される。”武家諸法度”適用の第一号。
 正解は、福島正則。
 豊臣恩顧の大名にして、徳川幕府の下、安芸広島五十万石の大守となる。
 が、戦国の世から太平の世に時代が移ろい、大きな時の流れに呑み込まれてしまう武勇の人だ。
 ドラマの放送が始まれば、福島ファンが巷に溢れるとプロデューサー氏は太鼓判を押す。僕が画面に登場するのは、六月中旬から。
『天地人』第二十四回「戸惑いの上洛」の台本を開くと、キャスト表のトップは、もちろん直江兼続二十七歳、妻夫木聡。ひとつ飛ばして石田三成二十七歳は、小栗旬。僕の名前は……、あったあった、福島正則二十六歳は、石原良純。
 戦国時代の僕は、妻夫木クンよりも、小栗クンよりも若い。

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