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週刊新潮 七月二十八日号
「石原良純の楽屋の窓 」
111回
“晴れ男”じゃない

「良純さんのおかげで晴れましたよ」
 ニヤリと笑うのは、ドラマ『刑事部屋』(テレビ朝日系・水曜夜)のスタッフ。梅雨時にもかかわらず、前日のロケは無事完了したようだ。でも僕は、「雨が降るよ」と予報したような気もするのだが。
 この時期の予報は難しい。春の名残りの空気と、真夏の空気が、日本の空で押しくらまんじゅうを繰り広げるから。
 前線のどこかがガクンと折れ曲がれば低気圧が発生。前線の位置が少し上下するだけでも、地上の天気は大きく左右される。
 たしかに、日中は晴れ間が広がったが、明け方に屋根を叩く雨音で目覚めたスタッフも多かったに違いない。この日は、一日分の雨が、明け方のほんの僅かの間にドッと降ってしまっただけのことだ。
 一昔前には、東日本の梅雨はシトシト型の女梅雨、西日本の梅雨はザーザー型の男梅雨と言われ、東西で雨の降り方が違っていた。
 高校生の僕は、カラッと晴れ上がった初夏の青空を教室の窓から眺め、次の休みは夏を先取りして海へ出かけようと決めていた。ところが、週末を待たずに梅雨入りすると、窓の外の景色は一変した。
 低く垂れ込めた鉛色の雲からは、一日中、細かい雨が舞い降りる。吹き込む風はブルッと身震いするほど冷たい。半袖にカーディガンを羽織らずにはいられない“梅雨寒”は、東日本の梅雨の言葉だ。
 一方、西日本の梅雨は豪快だ。ムシムシとした空気の中、空にモクモクと背の高い雲が沸き立って大粒の雨が落ちてくる。アッという間に街を水びたしにすると雲はサッサと消え、真夏のような太陽が顔を覗かせる。熱帯のスコールを思わせるのが、西日本の梅雨。
 だが、最近の梅雨の降り方、特に超陽性と称される今年の梅雨は、東日本も西日本も違いがないようだ。日照りが続き空梅雨かと思っていると、突然、大洪水を引き起こす集中豪雨がやって来る。
 六月の関東地方は、そこそこ平年並みの梅雨らしかったものの、西日本は極端な少雨。渇水の四国名物、早明浦ダムのお化け役場が湖底から姿を現して、大干ばつを予感させた。
 そして、月末には天気図からすっかり梅雨前線も消えてしまった。それまでの香川・高松の降水量は平年の十パーセントにも満たないありさまだった。
 ところが、七月に入ると同時に、東北南部、北陸地方に再び前線が姿を現すと状況は一変する。梅雨前線は日本列島を南北に蹂躙し、全国各地に大雨の猛威を振るった。高松ではなんと七月の最初の四日間に、一月分の雨が降った。
 一日の雨の降り方も、梅雨期間全体の降り方と同様に、ザッと降っては、パッと上がる。
 そんな天気だから、ロケ隊は一日現場に留まれば、何かしら撮影はできる。スケジュールを滞りなく粉せる陽気な梅雨は、プロデューサーにとっては有難いに違いない。
 だが、僕には日本の四季が壊れてゆくようで、恐ろしく思えてならない。
 今週はドラマの他にもいろいろな番組で、千葉、広島、静岡とロケに出かけた。天気予報の傘のマークを睨んで僕は、雨を覚悟して現場へ向う。
 朝、ホテルを出る時は雨。それでも昼を過ぎれば、日が差してくるではないか。
 「石原さん、晴れ男なんですね」
 快調な撮影にスタッフは喜んでくれるのだが、野っ原や海の上で予期せぬ日差しに晒されて、僕の顔は北京ダックのようにパリパリに焼け焦げていた。
 それに、違うんだって。僕は晴れ男なんかじゃないんだって。
 この真夏の日差しの正体は、地球温暖化なんだって。
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