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週刊新潮 七月二十一日号
「石原良純の楽屋の窓 」
110回
カットバセ! 良純

虻ちゃん、勝負!
 出塁したら、百万円。ヒットでなく相手方のエラーでも、とにかく出塁できたら、百万円。
 ソフトボールの一打席にそんな豪気な懸賞金がついたのは、若手芸人の人気番組『はねるのトびら』(CX系十九日放送)の“ABUCHANS”でのこと。
 対戦するピッチャーは、女性お笑いコンビ北陽の虻ちゃんこと虻川美穂子さん。ソフトボール部のエースで、高校卒業時には実業団からの誘いを断ってお笑いの道へ進んだという本格派だ。
 とはいえ、ソフトボールといえば野球の球より二まわりもデカイ。下手投げから繰り出される球がいくら速いとしても、かすらぬことはないだろう。
 そもそもこの企画は、こういった安易な素人考えに虻ちゃんが、「私の球が打てるワケない」と断言したことから始まったのだそうだ。
 だから、万が一にもヒットを打たれたら、懸賞金の百万円は、彼女の自腹。エラーの場合は守備につく番組レギュラー全員が、頭割りで負担するのだという。グランドでは、若手芸人の決して豊かではないであろう生活を賭けた真剣勝負が繰り広げられるというわけだ。
 僕も以前、採血させなければ出演できない番組というのに出たことがあったが、血を採られたり、ギャラの何倍もの百万円の出費を覚悟しないと番組に出られなかったり、出演者の皆が楽しく笑っているバラエティー番組といえども、実態は厳しい世界なのだ。
 バッターボックスに立つ僕は、ゲストの身分。たとえ三球三振でも、何のペナルティーもありはしない。それでも、一応はスポーツマンを自負している僕は、そうそう無様なマネをテレビで晒せない。
 一番・柴田、二番・土井、三番・王、四番・長嶋……。V9巨人を見て育った僕らは、誰もがキャッチボールをして、バットを振り回して遊んでいた。野球なんてできて当たり前だと思っていた。
 それが大人になって番組対抗の野球戦で、「良純さんの投げ方ヘン、バットの振り方おかしい」とウッチャンナンチャンに言われた時にはショックを受けた。
 たしかに、子供時分のままの僕の我流のフォームはどこか間違っているに違いない。
 三十歳で初めてテニスを習い始めた時、コーチの神和住純さんにまず尋ねられたのが「ラケットをどちらの手で持つ?」だった。
 右利きの僕は、当然、右手と答えたが、正解は左手でラケットの首根っこを持つ。右手はグリップに軽く添えるだけ。そうすれば、フォアハンドとバックハンドに素早く握り替えられるというわけだ。
 “習うより慣れろ”とは真っ赤な嘘。スポーツだって基本を習っていなければいくら練習しても上達しない。泳ぎだって、走るのだって、歩くのさえ、ちょっとその道のプロのアドバイスを受ければ、格段の進歩が得られることを、大人の僕は知っている。
 対戦の直前に、NHK『義経』収録のメイク室で、ウッチャンナンチャンの南原清隆さんに会った。ソフトボール対決の話をすると、僕はグリップに力が入りすぎているとの指摘を受けた。
 なるほど、テニスラケットやゴルフクラブを振る時に、あんなに力は入れてやしない。下手な奴ほどいらぬ力が入るのは、どんなスポーツにも共通しているわけだ。“目から鱗”の僕は、ぐんと勝負に希望が湧いてきた。
 さて、賞金百万円の使い途ですか。
 百万円ならロマネ・コンティを四、五本は買えるだろう。ロマネは二本目からが旨いとは、みのもんたさんの御高説。僕もカキーンとヒットを飛ばして、ババーンと立て続けにロマネを開けてやる。
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