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週刊新潮 十月十二日号
「石原良純の楽屋の窓 」
170回
安倍内閣の最重要課題

食欲の秋、芸術の秋。爽やかに晴れ渡る青空の一番高い所に、箒で掃いたように長く薄くたなびく巻雲。秋は一年の内で、もっとも空を眺めるのが楽しい季節でもある。
 しかし、僕はそんな呑気なことを言ってはいられない。なにしろこの秋は、我が家にとってのお受験シーズン。今日もウチの奥さんは、長男・良将を自転車に乗せ、説明会やら体験保育やらに出かけて行く。
「育児をしない男を父とは呼ばない」
 そんなポスターは、何年も前のこと。今や父親が子育てに関わるのは当たり前。怠れば将来の熟年離婚の火種となりかねない。入試の親子面接をサボろうとしたり、僕の大学卒業も知らなかったウチの親父の時代とは大違いだ。僕はちゃんと、奥さんの幼稚園情報に耳を傾ける。
 母親の目が真っ先にチェックするのは、園長先生の人柄。園長の人柄がそのまま園の教育方針に反映されるのだそうだ。
 僕の通った聖マリア幼稚園は、その名のとおりカトリック教会の付属園。園長先生はベールを纏ったシスターだった。
 先生の一人が、同級生のカッちゃんのお母さんだったのを覚えている。子供の僕は、幼稚園でもお母さんと一緒にいられるカッちゃんを羨んだ。
 幼稚園の先生は優しくて、僕は先生を間違って「お母さん」と呼んでしまうのを怖れていた。
 でも僕は、クラスのいじめっ子だったらしい。道で会った同級生の女の子は、僕を指差して「いじめっ子がいる」と隣の母親に告げていた、と今でもウチの母親は恥じている。
 そう、幼稚園児は、泥だんご作って、ボールぶつけあって、その辺を走り廻っていればいい。幼稚園だって通園に便利な家から一番近いところが良いに決まっている。
 それでも、今の親が幼稚園選びに腐心するのは、小学校の進路に関わるから。そして、そこには公立校の学級崩壊という大きな社会問題が影を落としている。
 先生の話を聞かないばかりか、授業を妨害し、果ては先生に暴力を振るう。そんな学級崩壊の話を新聞紙上では目にしても、僕には現実のものとして今ひとつピンとこなかった。
 そこで、教育現場の今を現役の先生に語ってもらい、より良い未来像を一緒に考えよう、というのが『センセイ教えて下さい!!』(テレビ朝日系・十日夜放送)だ。
 ゲスト席の僕らの単純な疑問は、言う事を聞かない子供を、なぜ先生はもっと厳しく叱らないのか、子供の我が儘などガンガン叱り飛ばせばいい、ということ。
 だから、子供のすべてを受け止め、話し合いの中で解決法を模索するという先生の意見に、皆の批判が集中した。
 しかし、頭ごなしに叱ってみても、たとえ体罰を科したとしても、現場では効果は上がらない。時には厳しく、時には優しく、話を聞くほどに、現場の先生の苦悩が窺える。
 僕の小学校時代、体育の先生は忘れ物をした生徒の太ももの裏を、クラス全員の前でペシリと大きな音を立てて叩いた。肌に滲みる痛みと、皆の視線の恥ずかしさに、「赤白帽を、もう忘れまい」と子供の僕は素直に思ったものだ。
 ところが、今時そんな事をしようものなら、すぐに怒鳴り込んでくる親がいるという。   
 自分に対して甘い者は、周りにも甘くなる。叱り慣れていない親が、叱られ慣れない子供をつくる。そんな構図も見えてきた。
 だけど、ウチの良将は、まだ二歳。僕が教育問題に頭を抱えるのは早過ぎる気もする。 
 安倍新内閣の最重要課題は、教育問題なのでしょ。頼みますよ総理。頼みますよ伸晃幹事長代理。

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