新潮
TOP
NOW
PROFILE
WORK
MEMORY
JOURNEY
SHINCHO
WEATER
CONTACT

 

 

 

 

 



週刊新潮 六月三十日号
「石原良純の楽屋の窓」
107回
四丁目で待ってるね 

「お前らさ、しっかりしてくれよ」
 思わず声を荒らげた僕が席から立ち上がってしまったのは『世界バリバリ☆バリュー』(TBS系二十八日放送)の収録でのこと。
 この番組では、リポーターが世界各地に飛び出してその土地ならではの風俗、習慣をお金に換算してクイズにする。
 前回に出演した時は、インドのマハラジャを訪ねる旅だった。マハラジャの別宮がホテルとなったスイート一泊の宿泊代や、インド高級リゾート地の豪華別荘一軒の値段などが出題されたが見事に優勝し、トップ賞の金貨をゲットした。
 しかし、今回は少し趣向が異なり、この日のテーマは、“慶應義塾”。
 かく言う僕は慶應出身者。それも幼稚舎(小学校)から大学まで十六年間もお世話になった。そこで今回ばかりは“慶應ボーイ”の代表?として、僕はクイズの前にVTR取材を受けることにもなった。
 慶應の良さを尋ねられて、まず思い浮かぶのは“人脈”という言葉だろうか。
 政界、財界を始め、あらゆる分野に大勢の先輩が活躍されているのは紛れもない事実だ。
 会社に入れば社内に三田会(慶應のOB会)があり、地方、海外にも現地の三田会がある。
 仕事で営業に廻れば、「君も慶應出身か」と商談がスムーズに運ぶなどという話もよく耳にする。
 それも僕のように幼稚舎から慶應となれば……。
「あの子は小さい時、暗かったから。人脈を活かし切れないのよね」
 とは、ウチの母親が幼稚舎からの一貫教育の良さを嫁さんの実家で語るうちに洩らした言葉。
 息子自慢の母親というのは聞いたことがあるが、「暗かった」だの、「人脈がない」だのと、実母が嫁の実家で息子の評価を下げて何の得があるのだろう。長年、政治家の妻だったとは思えない母親の発言には、びっくりした。
 でも考えてみれば、慶應人脈を活かして映画出演が決まる訳でもない。芸能界に関していえば、あまり学閥が活かされないのも事実である。
 僕が慶應から蒙った最大の恩恵といえば、学生時代に早慶戦の夜、銀座界隈で野球応援の三角帽を被っていれば、見ず知らずの先輩にタダ酒を奢ってもらえたことぐらいなのだろうか。
 スタジオには、この日は特別に慶應大学の現役女子大生五十人が観覧者として呼ばれていた。
 そんな彼女らを前に司会の島田紳助さんは、自らの経験をふまえ、「勉学に勤しむことは職業選択を始め自分の未来の可能性を広めることだ。一流私大と目される学校に学ぶ君達は希望溢れる人生を歩めるはず」と熱くエールを送った。
 そこで、現役慶應女子大生五十人に聞きました。
「お金は無いけど愛情溢れる男性。金はあるけど愛情の無い男性。どちらを選びますか」
 その回答結果に、可愛い後輩達の当然の答えを期待していた僕の血圧が一気に上昇してしまったのが、冒頭の下りだ。
 社会に出て、数々の現実に直面した立場ならその選択にも頷ける。でも貴女たちは、夢も希望もある学生の身。無限の可能性があるでしょうが。今から人の金、目先の金に目を奪われてどうするのだ。
 すっかり説教モードの僕の言葉に女学生の皆さんはワーワー、キャーキャー、仕舞には拍手をしてくれた。
 だからぁ、演出上、怒っているのではないって。
 先輩から後輩へ、自分が受けた恩恵は次の世代に伝えなくてはならない。
 ならば僕は、早慶戦の夜、タダ酒を飲ませてやることから始めるか。
 後輩諸君、秋の早慶戦の夜に、銀座四丁目の交差点で会おうではないか。
<<前号 次号>>

<<前号 | 次号>>