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週刊新潮 十一月二日号
「石原良純の楽屋の窓 」
173回
五重塔がグラグラ

トントントン。スタジオに金槌の音が響く。
 僕がなぜ金槌を握っているかといえば、五重塔を造るため。
『モアイの歩き方』(テレビ朝日二十八日放送)は、現代科学をもってしても難しい事業を、古代人がいかに成し遂げたかを解き明かす科学バラエティ番組だ。
 僕と佐藤弘道さんと山本梓さんのチームは、五重塔の謎に挑んだ。
 日本全国に、現在、五重塔は二十二基あるが、一つとして地震で倒壊したものはないという。五重塔には大きな揺れにも耐える、ある工夫が施されているからなのだそうだ。そこで僕らは、五分の一スケールの五重塔を組み立て、古代建造物の耐震性の秘密に迫る。
 ところが、僕の金槌がうまく釘にヒットするのは三打まで。四打目は釘の頭を掠めると、グニャリと釘を曲げてしまう。なにしろ、僕が大工仕事に勤しむのは、中学三年の技術の時間に、一学期間かけて椅子を造って以来のことだ。
 当時、先生の評価の基準は、なぜか椅子の出来不出来ではなくて、仕事の早さ。早く椅子が出来上がった者ほど評価が高い。僕も家に材木を抱えて帰り、家人に手伝ってもらう。おかげで通信簿にはΑを頂いたが、金槌さばきはさっぱり上達しなかった。
 だいたい、僕はこういった手作業全般が苦手なのだ。取材ロケに出かければ、ソバ打ちや傘貼りに挑戦することがある。そんな時、僕が共演者よりうまかった例がない。
 これ全て、僕の小さな手、短い指のせい。僕が不器用なのは、身体的な劣性遺伝の仕業と、今はすっかり開き直っている。
 でも可哀想なのは、ウチの長男・良将。彼も僕と同じで、体は大きいが、手は小さい。日焼けした二歳児の手は、まるで紅葉まんじゅうのようだ。
 そんな良将なら、今回のチームで頼りにするのは、父親の僕でもなければ、綺麗なお姉さんの梓さんでもない。きっと弘道おにいさんに違いない。なにしろ良将は、♪カエルがピョン、ヘビがニュル♪の・親子体操・の大ファンなのだから。
 佐藤弘道さんといえば、NHKの体操のおにいさんとして知られる存在だ。子供達はもちろんのこと、若いお母さんにも絶大な支持を得ている。
 たしかに、僕も朝の子供番組には大いに感謝している。体操やら歌やら踊りやら、子供達を画面に釘付けにし、その間だけ大人は自由になれる。我が家の朝のテレビは、ニュースよりもワイドショーよりも、教育テレビが画面を占拠する。
 しかし、今どきの子供番組を侮ってはいけない。市川染五郎さんが歌舞いてみせて見栄を切る。野村萬斎さんが狂言を謡い、KONISHIKIさんがハワイアンを奏でる。
 観ている子供だって生意気だ。良将は『英語であそぼ』のレスリーお姉さんという女性の歌がなくなって御立腹。母親に当たるものだから、困ったウチの奥さんはNHKに投書したとか。
 それでも一番のお気に入りは、子供の僕が『おはようこどもショー』のロバ君を観ながら踊ったように、やっぱり体操。その上、今の体操はうまく考えられている。ウィークデーは子供体操、ウィークエンドの土曜日には親子で楽しむ親子体操と、プログラム分けされているのだそうだ。
 体操が終わると、ウチのテレビの時間は終わり。子供らが原稿書きの僕の部屋に入ってくる。弘道おにいさんにもう少し踊っていてもらいたいところだが、子供にずっとテレビを観せておくわけにはいかないか。
 さて、トンカン僕らが組み立てた五重塔は、起震台に載せて震度六でグラグラ揺らす。
 僕らの五重塔は激震にたえられるか。古代人の知恵に勝てるのか。良将、期待して待っとれ。

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